2017-10

『犬の帝国―幕末ニッポンから現在まで―』を読んで

 本書は「イヌを通してみた」近代日本史です。人にとって犬は文化と自然の間に位置し、様々に論じられ、イメージされるとしています。著者によると幕末から明治にかけ、狆や猟犬を除いた日本土着の犬は各家庭に飼われていたのではなく、地域、あるいは道に住んでいる状況にありました。オオカミなど野性に近いものとして排斥される一方、在日欧米人たちは洋犬を持ち込み、時には日本人を威圧しました。大正期になり、日本においても中産階級が興隆し、ようやく各家庭で犬を飼うという習慣ができ、家族並の扱いとなりました。この時期日本土着の犬が見直され、日本犬保存会が設立されました。


帝国の犬
(アーロン・スキャブランド『犬の帝国―幕末ニッポンから現在まで―』岩波書店)


 著者は、犬の純血種(血統)は、英国をはじめとした欧米諸国により、帝国主義、人種主義の影響下で盛んになったこと、欧米各国ともナショナリズムとも結びついたことを論じています。満州事変が勃発した昭和初期には、日本におけるナショナリズム、軍国主義が興隆、日本の犬であるハチ公は、犬でさえ恩義を忘れないとしてイデオロギー教育の一環として取り上げられました。犬の研究で現在も知られている平岩米吉は、当時、犬を利用して恩義を教える教育をすることに異議を唱え、ハチ公は愛情から旧飼い主を慕っていたのだと反論しました。現代のアメリカでもハチ公物語が映画になるのですから、ハチ公の話が忠孝、恩義より普遍的なものを持つのは確かでしょう。むしろ問題は、世の中全体がイデオロギー教育にはまってしまっていたことのような気がします。私たち飼い主は自分たちの経験から恩義でなく愛情により犬が慕ってくれているのを本当は知っているはずだからです。著者が犬を飼った経験がないということが、客観性については強みになっていますが、同時に弱みにもなっているようです。


日本犬のイメージの形成
(日本犬は、桜や富士と写真に撮られ日本のイメージが刷り込まれた。日本犬は日本人同様、優秀で勇猛とされた。現在でも日本犬は恐いというイメージを持つ人がいるのもそのためかもしれませんね)
 

 ハチ公がイデオロギー教育に使われたということは、今までも重ねて指摘されているので、私たちにとって特に目新しいことではありません。しかし、第1次大戦の経験から、各国で戦間期に多くの軍用犬が養成され、第2次大戦で大量に投入された事実は知られていません。しかも家庭で大人になるまで育てられた犬が、続々と軍隊に送られ、国民はそれを銃後の務めと捉えていたようです。日本からも兵士のように激励され戦地に旅立った犬が数多くいたようです。さらに戦況が厳しくなると、食料難、狂犬病、犬を飼うのは贅沢などの理由で国策として畜犬献納運動が盛んになる一方、犬を育て犬の特攻隊を作ろうなどの動きも出てきたことが紹介されています。戦争中数十万頭の犬が犠牲になったとしています。ある厚生省の職員は、雌犬の避妊とともに食犬を奨励したといいます。

 現状分析については、制度派経済学のウェブレンの顕示的消費の概念を用い、犬は伴侶としての要素と商品としての要素を持つものとして議論を展開しています。「流行のスタイル」形成にあたりCMや映画の効果を重視しています。しかし「犬は(中略)、定期的に運動が必要であり、そのことで飼い主が散歩という形で自分の持ち物を見せて歩く機会が生みだされる」とし、顕示的消費の例にあげていますが、実際このように考えて散歩している人は、多数派ではないでしょう。ペットショップの生体展示販売、捨て犬の増加など、犬が商品であることにより生じる問題は重要ですが、総じて現状については表面的な分析に留まっている感じがします。


顕示的消費
(顕示的消費のため、このようなレインコートや服を着せられている犬もよく見かける)


 しかし、本書は、犬好きの人、日本近代史に興味がある人にとって、多くのヒントを与えてくれることは間違いありません。私も血統にあまりにも拘る飼い主や顕示的消費をしているようにみえる飼い主はちょっと苦手です。

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